役員に退職金を利用した節税方法

法人経営において、役員退職金は税務上重要な要素となります。役員に対する退職金の支払いは、法人の経費として計上することができるため、適切に活用することで法人税の負担を軽減することが可能です。また、退職金には一定の税制優遇があり、税法上の枠組みを正しく理解し、戦略的に活用することが法人にとって有利になります。

ここでは、役員退職金を活用した節税方法について、税務上の基本的な仕組みや具体的な方法、メリット、注意点について解説します。

1. 役員退職金の税務上の位置づけ

役員退職金は、役員が退職した際に支給される一時的な給与の一種です。退職金は、一般的に退職所得として課税され、法人にとっては損金として計上できます。このため、法人が支払った退職金は、法人税の課税対象から除外され、節税効果が期待できます。

【役員退職金の特徴】
・退職金は法人の「経費」として処理可能
・役員退職金は、退職所得として課税される
・退職金の支払いには、一定の要件やルールがある

2. 役員退職金の税務優遇措置

(1) 法人にとってのメリット(経費計上)

役員退職金は、法人が支払った退職金について、法人の経費として計上できます。これにより、法人の利益が圧縮され、法人税の負担が軽減されます。具体的には、退職金が損金として計上されることで、当期利益を減少させ、その分の法人税が軽減されます。

(2) 退職所得控除

退職金を受け取った役員は、その退職金が退職所得として課税されますが、退職所得に対しては退職所得控除が適用されます。退職所得控除の額は、役員が退職する年数に応じて増加します。
・勤続年数が20年以下の場合:40万円 × 勤続年数
・勤続年数が20年以上の場合:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年)
例えば、勤続年数が25年の役員に対して退職金が支払われる場合、退職所得控除額は800万円 + 70万円 × 5年 = 1,150万円となります。これにより、課税対象となる退職所得が減少し、税負担を軽減できます。

(3) 退職所得の課税方式

退職所得は、一般の給与所得とは異なり、分離課税が適用されます。退職金に対して課税される税率は、次の計算式に基づいて算出されます。
・退職所得課税 =(退職金額 – 退職所得控除)× 1/2(分離課税)
例えば、さきほどの例の25年勤続の場合、退職金が2,000万円で、課税対象となる退職金は2,000万円 – 1,150万円 = 850万円となりますが、さらにこれを半分にすることができるため425万円が課税対象となります。これに対して、所得税と住民税が課税されますが、通常の給与所得に比べて税率は低くなるため、税負担を軽減できます。

3. 役員退職金を利用した節税方法

(1) 退職金の額を適正に設定

退職金の額を適正に設定することが重要です。退職金が高すぎる場合、税務署から過剰な支払いとして否認されることがあります。逆に、低すぎる場合には、役員の報酬との整合性が取れないため、税務上問題が生じる可能性があります。
退職金の額は、役員の勤務年数や役員報酬、法人の業績などを踏まえた合理的な金額である必要があります。具体的には、過去の支給実績や業界標準を参考にし、退職金規程を定めておくことが推奨されます。

(2) 退職金規程の整備

法人において、役員退職金を支払う際には、退職金規程を定めておくことが重要です。これにより、税務署に対して合理的かつ一貫した支払いが行われていることを説明できます。退職金規程には、退職金の支給条件や支給額の決定方法を明記し、支払が適正であることを証明できるようにしておくことが求められます。

(3) 退職金の支払い時期を調整

役員退職金の支払い時期を調整することも節税に繋がります。たとえば、退職金の支払いを次の期に遅らせることで、法人の当期の利益を圧縮し、当期の法人税を軽減することができます。

4. 役員退職金を利用した節税のシミュレーション

以下に、役員退職金を支払う場合の節税効果をシミュレーションしてみましょう。

【前提条件】
・役員退職金:2,000万円
・勤続年数:25年
・退職所得控除額:1,150万円
・法人税率:33%
・退職金支払時期:当期

【退職金支払い前】
・法人税の課税所得:5,000万円
・役員退職金を支払うと、法人税課税所得が5,000万円 – 2,000万円 = 3,000万円に減少
・法人税額:3,000万円 × 33% = 990万円

【退職所得の課税】
・退職金額:2,000万円
・退職所得控除:1,150万円
・課税対象額:2,000万円 – 1,150万円 = 850万円
・分離課税後の課税額:850万円 × 1/2 = 425万円
・所得税額および住民税: 431,372円 + 425,000円 = 856,372円

【結果】
・役員退職金による法人税軽減額:2,000万円 × 33% = 660万円
・役員退職金に対する個人の所得税額:431,372円
・節税効果:法人の税負担軽減 660万円、役員の税負担軽減 856,372円
差額 6,600,000円-856,372円=5,743,628円

5. 注意点

・適正な金額設定:退職金が高すぎる場合、税務署に過剰な支払いとして否認される可能性があります。退職金に関する計算ルールがあるのでそれに準拠した方法で計算し、かつ退職金規程をしっかり整備することが重要です。
・退職金の支払い時期:退職金の支払い時期についても適正なタイミングで行う必要があります。
・税務調査のリスク:過剰な退職金の支払いが認められなかった場合、税務調査で追徴課税を受ける可能性があるため、税理士と相談しながら進めることが望ましいです。

6. まとめ

役員退職金を適切に活用することで、法人税の負担を軽減し、また役員個人にとっても税負担を減らすことができます。退職金の金額や支払い時期を慎重に計画し、税法に則った処理を行うことが節税には不可欠です。

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